学校の当たり前を科学的に考える機会を与えてくれる本
協同学習や振り返り、学級通信など、学校の中には様々な新しい取組や慣習があります。取捨選択をしないと増え続ける一方になるため、仕事が終わらなくなってしまいます。ただ、「子どものためにならないのではないか」という視点から、何かを減らすのはそう簡単ではありません。この本ではエビデンス(科学的根拠)を用いて学校の取組をスリムにする方法を提案しています。研究と実践の橋渡しをする導入の1冊になるかと思います。えびでんす…。
考え方のフレームワーク
エビデンスを使って判断するための考え方のフレームワークもSICOという提案されています。これを使って二項対立を作れば、取捨選択をしやすくなります。
S | Student | どんな子どもに | 「時計がわからない子ども」に |
I | Intervention | 何をすると | 「プリントに取り組ませる」のと |
C | Comparison | 何をするを比べて | 「アプリを使って勉強させる」のとでは |
O | Outcome | どうなるか | 「時刻と時間の概念を理解しやすいのはどちらか」 |
個人的には、一方を切り捨てる選択だけではなく、一方を選ぶ選択にも使えるフレームワークだと感じました。「AかBか」にも「AもBも」にも、「AよりB」にも使える考え方のフレームワークです。他の人に自分の取組を紹介するときにも、使えそうです。
紹介されている事例3つ
16の事例が会話形式で紹介されていました。そのうち三つを紹介します。
1.振り返り学習は効果的か
振り返り学習は効果的とのことでした。授業の最後に数分振り返りの時間をつくるだけで良いので、コストパフォマンスも良い取組です。より効果のある振り返りのためには、継続的な振り返りの指導と、基準等を学校や学年で検討することが重要だそうです。偶然、勤務先の校内研究の課題が振り返り学習なので、良いきっかけだと思います。
2.ICTは効果的か
ICT自体は効果があります。ただ、それを適切に使えるようになるための指導、準備の時間、教員の研修等を考えると、一概に良いと言い切れない部分もあります。今回のGIGAスクールの取組も、教員への十分な研修を行ってからの導入が理想ですが、コロナウイルスの影響もあり、実践しながらの導入になりそうです。このように、エビデンスがあっても、時間や費用といったコストとの対立が起きることがあります。
3.学級通信はより良いクラスづくりにつながるか
私も週に一度発行を目指している学級通信ですが、そのエビデンスはコストも踏まえると十分と言えるのでしょうか。これについてはエビデンスが存在しないため、結論が出ていません。だったら研究の余地があるとも思えそうですが、エビデンスとして十分なレベルの研究のための条件統制も難しいでしょう。このような問題は、子どもを目の前にした教員の判断で行うかを決めるところかと思います。
感想
エビデンスを用いて判断をする機会になりますが、読んでみると「学校の中のことは科学的に判断することは簡単ではない」ということに改めて気づくことができます。確かに、振り返りやICTは効果があることが分かりますが、日本での研究ではないことも踏まえると、一概に必ず正しいとは言いにくいところもあるのかと思います。様々な情報を仕入れて、SICOのフレームワークも使いながら目の前の子どもに適切な手立てを加えていく、そのための判断能力を磨いていければいいなと思いました。すごく読みやすくて学校のあるあるを検証している本なので、ぜひ手にとって読んでいただければと思います。
参考:
森俊郎・江澤隆輔『学校の時間対効果を見直す―エビデンスで効果が上がる16の教育事例』(2019)学事出版